月刊ビオラ~Shimpei特集記事~ -6ページ目
<< 前のページへ最新 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6

イギリス上空☆

れから3時間後、急に高度を下げ、眼下にあった雲海の層を抜ける。その厚い膜の嵐を抜け出すと、突然、真っ暗闇の大地に微細なネオン色が目に飛び込んでくる。ほお、自分はラピュタにいるんだな、そう錯覚できる。中心地から伸びる道路ネオンの重なり。それを上空から眺める不思議さ。自分がミクロになって、微生物を俯瞰しているよう。菌糸がごとく、暗闇に触手を派生させるオレンジの脈たち。生命の神秘。人間が大自然に根をはるしたたかさに思いを馳せた。

 

始単細胞生物が共生して多細胞生物になったように、人間も社会という名の生き物を構成している。その生き物をこうして俯瞰してみると、それはまさに生きているように思えるのだ。社会のうごめき。生物がさまざまな代謝のシステムを構築しているように、社会もマーケットを中心に自然淘汰を繰り返す。国と呼ばれる大きな細胞を造り、互いに機能し合っている。人々は浸透を試みる。細胞の種類ごとに化学反応を起こすルールが整っているように、法律が機能している。金融市場は高度に電子化され、グローバルにつながった電脳空間で巨額の電子マネーが血液のように駆け巡る。自己のDNAを残そうと躍起になりすぎ、ガン細胞のように他国を爆撃する国もある。多田富雄博士が論じているように、統括機関があいまいなままの「スーパーシステム」が社会に存在する。

ロシア上空☆

港を発ってから8時間後ぐらいのことだろうか。すでに機内の灯りは消え、乗客はみな寝静まっている。ふと眼が覚め、窓に目を遣る。眼下には、地平線へ延びる雲とロシア永久凍土の暗闇。黒色の超巨大空間に思わず圧倒される。きっと何百キロも広がっているであろう暗闇の大自然が、肌に伝わる。その真っ黒の大地とは対照的にまたたく、満点の星空。機体と同じ高度で、輝きを主張する月。そのキラメキを遮るものはなし。今この空に自分が在る神秘。この静寂を、静観。命を鼓動させているのは、不思議と、自分と星と月だけな気がしてくる。大空と大地を、ひとり占め。

ふらいとあてんだんと☆

 ンドン行きに搭乗。日本からの便と違って、日本人はまったく見当たらない。ほとんどが香港人とイギリス人らしき乗客。俺の席は窓側ゲット。そのまわりを中国語が飛び交う。写るモニターや流れるアナウンスに日本語はなし。客室乗務員も全員日本人以外の中国、イギリス、インド系。珍しく女性より男性の客室乗務員のほうが多い。「スチュワーデス」より「フライトアテンダント」というほうが自然なのも、うなずける。彼らはイギリス紳士を代表しているよう。映画にでてきそうなスマートさ。カッコいいけど少し、紳士な分こわい。大阪の芸人さんが客室乗務員になったら、カッコいいかは別として、コワくないだろうにな。ミスを笑いでごまかしちゃいそうだけど。リラックスできそう。そんな異国の便で香港からロンドンまでの12時間、期待を抱きつつ、さみしい。長い夜。

 

時間が過ぎただろうか、ケータイとデジカメをいじっていると、イクスキュウズミィ、サーと呼ばれ、ナントカナントカ。どうやら怒られているかんじ。ケータイはまずかったか。窓のブラインドを下げてなかったからかな。わかんなかったけど、早口でコワかったから、大急ぎで謝ってごまかす。あら、困った・・・何は、して、いいのかな。フィッシュかチキンかでは、俺の発音はとても聞き取りづらそう。となりに座っていた女の子の香港人が同情して言い直してくれちゃう始末。その後、カーフィ、ナントカナントカ?と聞かれ、コーヒー飲みたかったから、カーフィ、え?カーフィ、ん?カーフェ?とか言ってみると、コーヒーとオレンジジュースが。何で両方なのか・・・。今度は香港人も観て観ぬふりってかんじ。なさけない。きっと何度もオーダーをたずねて俺の英語力を試している。というのは俺の被害妄想だけど。帰りの飛行機ではカッコ良くオーダーしてみせると固く決意。このジャパニーズはなかなかやりおるわ、と思わせてやる。

香港トランジット☆

港国際空港に到着。日本時間午後九時ごろか。もう日本人は見当たらない。何をするにも英語が必要な世界に突入。乗り換えまで三時間くらい余裕があったから、空港内で楽しもうとして歩き回る。初めて英語で米国ドルから香港ドルに両替。文法や構文はとりあえず無視。堂々と単語を並べてプリーズ付けとけば、こなれたかんじに見えていそう。そんなナルな俺。食べ物屋が並ぶフロアに行ってみるとジャズの生演奏が耳に入ってきた。やっぱり生の音は違う。自然と惹かれる。耳だけを頼りにその音源を探す。両替したお金で、そのバーに入ってみる。カッコよくワインでも飲んだら決まる!と思ったけど、やっぱり飲みたかったトマトジュースをオーダー。ピアノ・ベース・ドラム・ボーカルのジャズに浸りながら、香港人ウォッチング。トマトジュースでおかしな異国情緒。

トメィトジュース速く出でいきそうっジャズにゆれゆれかっこいい?

日本よグットラック☆

4/1

成田午前11時。

 が友Sと別れ、ついにここ自由が丘から、単独の旅が始まる。京成線特急で成田まで。特急とは名ばかりで、たくさんの小さな駅に停まる。都心から離れ、広大な田畑が。ほんとにこんな田舎に世界の玄関があるのかと疑問に思ったほどだ。降りる駅は行けばすぐにわかるだろうと甘く見ていたが、成田駅、成田空港ターミナル第二ビル駅、成田空港駅があり戸惑う。列車は田畑からビル街へ、そして地下へと潜った。

 を頼りに無事、出国ロビーに着いたはいいが、さて、どういう手順で出国手続きをしていいのかわからず迷う。まずは何をするんだっけ。ウォークラリーのように次はどこですかとゲーム感覚で、とはいかず、そうやって楽しむ余裕はあまりなく、やっとの思いで搭乗口に到着。というか流されて到着。ひとりは、やっぱり心細い。それを覚悟の上、と頭で言い聞かせても、体が着いていかない。空港でのひとりぼっちのさみしさよりも、これからひとりで日本を離れるさみしさがじわじわと伝わってきたようだ。これから何が起こるかわからない不安。ひとつひとつゲートをくぐるごとに無防備になりそうな恐怖。守られた世界から未知の世界へのゲート。

 続きがすべて終了した搭乗20分前に、京都の友達に電話する。不安でだろうか。何を話せばいいかわからなくなり、少し沈黙をさせてしまった。そんなとき、パイロットに手を振ってみてください、と話してくれた。返してくれますから、と。それは小さい頃の話で、今の俺がやったら、何かの予告とも取られかねないよと笑いあった。俺の声は、自分でもどうしようもなく細く途切れがちだったが、それをやすらぎが包んでくれた。

 本への望郷を背に機内に搭乗。飛行機の羽が思いのほか薄い薄い。機体の大きさと比べても不恰好。風で折れてしまいそう。本家である鳥の羽はあんなに頼もしいのに。こんな重たい機体が正確にユーラシア大陸を飛んじゃうなんて。でもみんな平然。当たり前そうに毛布をかぶったりしている。だからひとりで、浮けっ、がんばれっ、浮けぇ、と応援。重たいお尻がズッシリと地上を離れる。雲を超えたときは心で拍手。この翼に、俺の命と未来を預けているんだもの。よし、俺も、がんばるぞ。

時刻表?

飛行機

<< 前のページへ最新 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6