ピエロと黒船と人生to SanFrancisco Airport | 月刊ビオラ~Shimpei特集記事~

ピエロと黒船と人生to SanFrancisco Airport

 本人の参加者は七人。出国ロビーのミーティングポイントで初対面。加えて、東京オフィスの日本人スタッフが見送りにきてくれた。もう何の手続きも焦らずにできる。むこうに着くまでに何が起こるか、見通しがついている。お見通しだ。今回はひとりではない。六人の仲間がいる。スタッフが細やかに心配してくれ、笑顔で手を振って送り出してくれた。なんと恵まれたことか。ひとりでイギリスに行くために通ったゲートは、まるで様相を変えたように思えた。自分を不安にさせていくゲートから、自分の旅立ちを歓迎してくれるゲートへと。心に映る、そのゲートは、余裕さのバロメーターのようだった。イギリスに発つ前に、不安で声が細くなってしまった電話をした搭乗口。今では笑って飛行機でも眺めようか、と思えるのが嬉しい。

 もやっぱり機体がずっしりと浮き上がるときは興奮だ。これだけは慣れてしまいたくない。どきどきしてくれたままでオーケイ。サンフランシスコ国際空港まで9時間のフライト。飛び立ってから、なんと5時間も、気の合ったメンバーのひとりと会話した。お互い、子供時代から今までのことを自然に話し合った。大学の話、サークルの話、旅行の話、恋愛の話、家族の話、わらい話、就職の話、これからの話・・・。初対面なのに不思議にかなり深いテーマまで打ち明けられた。太平洋の真上を安定飛行しながら。日付変更線をまたぎ、時間という軸が曖昧になっている機体のなかで。初対面の相手に言葉だけで伝えるということ。真白なキャンパスに自画像を描くよう。俺たちの今までとこれからが、形而上的に浮かび上がって整理され、それぞれの心に着地していった。

 編物語に一幕を降ろして、インターバルにピエロが登場するように、アメリカンな搭乗員が食事を運んできた。機内は暗いのにいつもイカした薄黒いサングラスをかけて、ノリがいい乗客にちょっかいを出す男性のアテンダント。「カワイイネエ」とか片言の日本語を話すアジア系だ。さらに、日本でもイギリスでも未だ出会ったことのないくらい大きくガッシリとした女性のアテンダント。通路ぎりぎりを豪快に歩いてくる。まるで黒船来航を見ている心地。俺は口が半開き状態。ちょうど俺の席で通路が少し細くなっていたらしく、後ろからゴツンゴツンとトレイを乗せたワゴンがぶつかる。振り向くと日本人らしき女性アテンダントだった。臆することなく対等に仕事している彼女はカッコよかった。「何度でもぶつけてってください」と言って笑いあった。

 の男性アテンダントは俺たちのところが気に入ったらしい。オレンジジュースを1リットルのパックごとくれたり、出された機内食の果物がおいしいからといって2パックも持ってきたり。好意でというよりは、どうやら遊ばれたみたい。前出の初対面友達がワインを頼むと、ほんとに成人かどうかからかってくる。その後にグリーンティーを頼むと、やっぱり子どもじゃんかといった具合に笑っていた。日本人アテンダントは俺たちに笑いながら、「彼は無視しとけばいいから」と彼の前で言っていた。でも横切るたびに何か言ってくるから笑ってしまう。

 船にピエロにチョッカイを挟んでの深い人生論。おかげで楽しいフライトにしてもらえた。