ビオラと三匹の子犬☆ | 月刊ビオラ~Shimpei特集記事~

ビオラと三匹の子犬☆

6月22日

 

 カタッ、と何か小さいものが落ちてくる。また少年たちの石かと思い振り向くけど、誰もいない。落ちたものをよく見てみると、小さな小さな種だった。どうやら真上の木から、風に揺られ落ちてきたようだ。公園と少年と石は、俺のトラウマになっているみたい。ホッとして、小さな贈り物と共に、またビオラの練習に執りかかる。雲ひとつない青空。どこまでも続いている青。

 の裏庭でも弾いてよいのだろうが、近所への迷惑を考えると長い時間は弾いてられないし、大きい音も出せない。だから、たいていは懲りずに近くの公園でビオラを練習している。演奏会前はそれが放課後の日課。広大な芝生の公園。ちょっと人目につきにくい林のそばに行く。その木陰が俺のお気に入り。太陽がさんさんと輝いているけど、実は今、夜の八時ごろだ。今のイギリスは日照時間が長く、夜十時ころ夕焼けだ。

 ょうど良いベンチに座り、楽器のケースに楽譜を置いて弾くスタイル。室内とは違い、こうして外で弾くと全く反響がない。ビオラ本体の響きだけが音になる。少しでも甘く弾けば汚い音がくっきりと出てしまう。残響でごまかせないからだ。一方、毎週火曜に学校の教室を借りて練習させてもらっている。その教室で弾くと、何と楽なことか。風はないから弓は安定するし、楽器に悪い直射日光を気にしなくていい。ビオラ本来の響きを追求してたから、鳴りが格段に良くなってる。外で弾く、意外な練習効果だった。

 日は一時間半くらいで切り上げた。その間、犬の散歩をしてる人が何人も通りかかった。散歩の仕方は日本とは違い、みんな長い長いロープか、ロープなしだ。ちゃんと飼い主が呼べばついていく。芝生が気持ち良さそう。犬たちは笑顔でゆっくり走っているように見える。興味深いことに、たいていの犬たちが俺のベンチの前で立ち止まるのだ。弾いているところを犬たちに見つめられて、ちょっと恥ずかしい。しばらくビオラの音を聴いてから、飼い主に呼ばれ立ち去っていく。

 るとき、元気の良さそうな三匹の子犬が、俺の観客になった。しばらくして、飼い主のおばちゃまが追いつき、ゆっくりと到着。このおばちゃまは、他の飼い主とは違う。練習している俺に微笑みかけ、「ハアィ」と話しかけてくれたのだ。俺は嬉しいから、笑顔になって答える。おばちゃまは、驚いたように「あなたの音はいいわよ」と、やさしい笑顔で何度も言ってくれた。「私の犬たちが不思議がって、あなたの音を聴いているわ」。三匹が三匹とも、同じ方向をむいて聞き耳を立てている。かわいくて仕方ない。そんな姿を、おばちゃまと笑いあう。暖かい雰囲気のなか、グッバイ。

 ぜかわからないが、その後は疲れが取れていた。