倫敦4☆ | 月刊ビオラ~Shimpei特集記事~

倫敦4☆

                       ちゃいなたうん  

 大迷路のような回廊を抜け、大英博物館の出口へ。未だにどういう構造になっていたのか思い出せない。たくさん歩き倒したから足がだるい。たくさん見すぎたから頭がつらい。外に出るころにはもう、みんな無口に。今日の夜はぐっすり眠れること保証済み。

 ネルギーを補給しないと動けなくなりそうだから、このロンドン旅行最大の目的の前に夕食を摂ることに決めた。チャイナタウンにある中華を目指して移動。店の外観をチェックし、あやしいかどうかを判断。もう直感の世界だ。何が起こるかわからない、そうここは異世界の内に潜む異世界。さまざまな価値観がうごめき合う交差点。今ホットな排日運動の気運にも気を配り、明るい店に入る。

 とりずつ好きなものをオーダー。俺はチャーハンとスープとワインを。友達は何かの麺とビール。もうひとりの友達は別の種類のチャーハン。しばし待っていると、ボーイの兄ちゃんがお皿を用意してくれた。ガチャガチャと今にもひっくり返りそうなくらい荒々しく。そんな姿に俺たち三人は内心びっくりだが、表情には出さない。もう常識外のことに遭遇するのは慣れている。こういうときは、これが中国流なんだなと頭に理解させる。

 れど、出された料理を見て、驚きを声に出す。オーダーの失敗に気づかされたのだ。俺と友達のチャーハンは大盛りの特大。どうやら一人分ではなかったみたい。どうりでとり皿がたくさん用意されているわけだ。もうひとりの友達のどんぶりには、スプーンではなく、おたまが入ってる。味はというと、しない。味付けされているかどうかわからず、油っこい。塩こしょうを一生懸命に振ってから食べる。結局、チャーハンは残してしまった。ワインはおいしく、座っているのが心地よい。久々のお酒が体にまわる。というわけで、こんな(普段以上に)目の細い表情をしているわけなのです。

 カデリーサーカスという場所にあるシアターに向かう。ミュージカルだ。演目は「レ・ミゼラブル」。泊りがけにしたのは、これを観るためというのが大きい。
レ・ミゼラブルだ  三階席だから高い  劇場

 っかけは宮本亜門。日本にいたときテレビで見た、彼のドキュメンタリー。それが心を動かし、ミュージカルをどうしても観たくてしょうがなくなった。そこには人間が持つ感情表現の極致が含まれていると感じた。VTRで一目見ただけで、惹きこまれたのだ。演出家である彼が、俳優の腕の動かし方ひとつ変えただけで、みるみる輝いていく。人をきらめかせる、という力。どうしたら心の内に渦巻く言葉以上の思いをあふれ出させることができるか、その方法を知っているようだ。

 こに、どうすれば人の心をつかめるのか、そんな難題のヒントが隠されている気がする。それは社会人になって、いかに自分を活躍させるか、企画をどうプレゼンするか、企業をいかに広報するか、それらだけでなくさまざまなシーンとつながっているはずだ。「違いがわかる男」。小さい頃CMでしか見たことがなかった彼はコーヒーを飲んでいるだけではなく、とても魅力に富み、情熱的に仕事をしていた。ミュージカルという表現方法を通して。高校の学園祭以前は内気だった彼を、ミュージカルが開花させたという。俺も、がんばって、違いをわかりたい。

 晴らしい音楽。それは演者の感情を支え、さらに感情そのものになる。ミュージカルの歌はオペラよりも現代的で、ポップスよりもドラマチックだ。オーケストラピットでの生演奏も聞き応え十分。

 こはミュージカルの本場ロンドン。たくさんの劇場で数えきれない演目が上演されている。ついに観られる。インターネットで購入した、一番安い席のチケットを握り締めて開場を待つ。入ってびっくり。外の造りは普通なのに、内装はきらびやか。歴史を感じる古びた映画館のようでもあり、事件が起きそうな屋敷のようでもある。幕が上がり、俳優たちが登場。生の人間はやっぱりリアルだ。そこに居る。そこで苦しんでる。そこで喜んでる。歌は予想以上にうまい。特に主人公の女性はすごい。声が光っているよう。ビブラートの揺らぎが俺の心も震わす。背景が真っ暗で、主人公にだけ強いスポットライトが当たる。そんなときは、光が当たってるのではなく、自ら光を発しているかのように見える。そんなことを思っていると突然、舞台が反転。巨大セットが現れた。さっきまでなかったのに。いつのまに無音で準備したのだろう。

 容は、正直とてもよくわからなかった。歌の英語をなめすぎていた。リスニングが半端なく難しい。観客がドッと笑うときに、俺には理解できないのが悔しかった。そんなときは雰囲気で一緒に笑っておいた。クライマックスでは、どうやら悲しい場面だったらしい。となりの女性客が泣きそうになっていたから。なんだか乗りに着いていけないから、いろいろ観察して楽しんだ。カーテンコールのときにはスタンディングオベーションを体験。まわりに乗り遅れないように、頑張って勢いよく立っておいた。「日本語だったらもっと楽しめただろうにな」、と友達に言うと、「ちがうよ、英語を聞けるようになったらだよ」、だってさ。そうでした。

 場の外に出ると、ロンドンの危なそうな夜の街が広がっていた。わくわくするけど、もうくたくた。夜景を楽しみ、早々とチューブに乗りユースホステルに向かった。   

キマった?  自分撮り   ロンドンの夜