倫敦2☆ | 月刊ビオラ~Shimpei特集記事~

倫敦2☆

 エストミンスター駅に到着。長いエスカレーターを上がり、地上の世界に出る。まぶしくて、目がくらむ。狭く息苦しいチューブの上には、真っ青な大空と人々の喧騒が広がっていた。街並みを見渡すと、いきなりビッグベン。目に飛び込んできた。イギリスの国会議事堂、ロンドンのシンボルである時計塔だ。今まではテレビの中で見慣れた存在の建造物。でも画像として見慣れているはずなのに、今、感じる違和感。それを実際に眺めてみると、頭のなかのイメージと目の前の実物が喧嘩するのだ。こんなに巨大で、威厳を感じさせるものだったとは。背後から突然Mr.ビッグベンに驚かされちゃった気分で、なんだかわくわく。   

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 こに来たのは、テムズ川を船で観光しながら下り、タワーブリッジまで行くのが目的だ。チューブの駅からすぐそばの河川敷を歩き、船着場に行く。ちょうど良い時間の便があり、急いでチケットを購入。船の二階は屋根がなく、あそこに乗りたいっ、と友達を誘う。ドゥオックンゥ。いきなり思った以上に揺れながら発進。船が爽やかな風を切って進む。きらきらと、イギリスでは貴重な日光がとっても心地よい。まだ何も見ていないけど、こう感じられただけでも乗って良かったと実感。気持ちいいから背伸びをし、広い空を見上げれば、飛行機雲のプレゼント。思わず笑顔。その進行速度はかなり速く、だから急いでカメラのファインダーに入れる。まるで流れ星。白い帯をひらめかせている。昼間の流れ星。その先端に何百人もの乗客が居るなんて信じられない。人工の流れ星。それは広大なロマンがあって、あまりに美しいから、ふと、大自然が造りだす現象のように思えてしまう。しばらく眺めていると、空の先のほうへ消えていった。

 ッグベンにさよならをし、30分の船旅。

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 現代のロンドンのシンボルになりつつあるのは、ロンドン・アイ。「ロンドンの瞳」という名の超巨大観覧車だ。世界最大級。ミレニアムを記念して造られたそうだ。ひとつのゴンドラに十数人が乗る。料金はたしか11£(約2200円)で行列を覚悟しないといけない。お金と時間に余裕があるときに乗ってみたいものだ。船は何本も巨大な橋をくぐる。それは無味乾燥なコンクリートだけでなく、きれいに彫刻が施されている。パステルカラーを多用しているところが和ませる。川沿いの建物は石造りの荘重なものから、近代的なガラス張りのものまで様々だ。日本とは異なる感性や価値観がおもしろい。テムズ川自体は相当汚く、濁っている。産業革命時のそれはかなりひどかったんだろうと想像する。イギリスは環境対策が進んでいるといわれているけど、今でもロンドンの汚さを嫌うイギリス人は多い。ロンドンの水は飲まないほうがいいと言われている。ロンドンに住む人たちは、休日にボーンマスなど南へ新鮮な空気を吸いに来る。

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  ワー・ブリッジに到着。かなりきれい。水色と青色のデザインが気に入った。タワー・ブリッジを背に写真をみんなで撮り合ったり、他の観光客に撮ってもらう。写真に自分と被写体を収めれば満足。観光地で写真を撮って帰るだけの日本人。学校の授業で、その日本人の習性が英語の例文になっているほどだ。でも、そうはわかっていても止められない。記念にパシャ。またパシャッ、パシャ。

 お昼を食べに中華街へ移動。そのすぐそばに日本人街と呼ばれる一角がある。中華街と比べてもとても小規模。日本に韓国と中国とイギリスが混じったような街。だから日本人街と言われても、あまりピンと来ない。けれど、ニッポンに飢えている俺たちは少しでも日本のものを発見するたびに叫ぶ。おぉ、かっぱえびせん!おぉ、味噌汁!おぉ、回転寿司!おぉ、醤油!おぉ、ブルドックのソース、おぉ、とんがりコーン!おぉ、マンガ!お昼ごはんは、日本食の食堂に入った。中は日本のつくりで、ちゃんと日本茶が出てくる。日本人の店員さん。日本の箸。日本の湯のみ。違うのは、入ってまず「How many?」ときかれたことと、箸袋に箸の使い方が描いてあったことぐらいか。俺は味噌ラーメンをオーダー。この味付けが懐かしくて懐かしくて。これを読んでる人は決して懐かしくないだろうけれど、わかってください、この感動。

 わりには、イギリス人や他のアジア人に混ざり、日本人がけっこう居る。こんなに多く日本人を見たのは二ヶ月ぶり。ここまで多く日本語をしゃべり聞いたのも二ヶ月ぶり。日本の空間に入ったのも二ヶ月ぶり。だから、自然と頭をかしげる。あれ?なんかおかしな気持ち。なんだか頭が気持ち悪い。ここってイギリスだったっけかな。錯覚を起こす。この街は感覚を麻痺させる。まるで、ニッポンへおいで、と誘ってくる磁石だ。店を出るとまたイギリスの街並みにカムバック。奇妙な世界に、迷い込んだような感覚。お腹はニッポンでいっぱい。

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